日本のスポーツ界では、団体から得られるギャラだけで生活ができる競技は、プロ野球やサッカー、大相撲など一部の競技に限られます。
例えばプロ野球の場合、一軍で1600万円、二軍で440万円が最低保証年棒となっており、同年代のサラリーマンと比べるとまずは充分以上の額と言えます。上位選手になると給料だけで数億円の年収があります。ちなみに大相撲は十両以下の力士の収入は僅かですが、部屋に所属することで相撲協会から衣食住は保証されています。
また、企業から給与が出る実業団タイプもあり、この様な環境にいるアスリートは安定した収入を得つつ、競技生活を続けやすいと言えるでしょう。
一方他の競技では、ゴルフや格闘技、X-GAME系など、一部トップ選手の収入は多いものの、多くの選手が他の仕事と兼業している競技もあります。
このような競技には次の三つの特徴があります。
- 個人競技である
- プロでも試合に出られる保証がない
- 一部の選手を除き競技団体から得られる収入は少ない
今回はこの様に不安定な競技を続けるアスリートが、収入を最大化する為になぜ情報発信が必要かと、その方法についてまとめてみます。
スポーツの4大収入源とは
まず初めに、スポーツ興行の収入構造を理解しておきましょう。競技の主催組織やチームが得る収入源は次の4つになります。
①.チケット
- スタジアム内物販を含む観戦チケット収入
- ②〜④の収入は満員のスタジアム・ホールの熱気があってこそ増大する
- 最近ではPPV(ペイパービュー)も含まれる
②.放送権
- テレビ局や動画配信メディアが試合を放送する権利による収入
- 過去の映像や音声の配信の含む
- ③のスポンサーシップと密接に影響する
③.スポンサーシップ
- 看板広告を使った宣伝・告知権利などによる収入
- チームスポンサー・スポンサー冠試合など様々な形がある
④.マーチャンダイジング
- ロゴや肖像を使ったグッズの商品化権利による収入
- チームスポーツだとレプリカユニホームは大きな収入源の一つ
この4つからの収入が多い競技ほど、選手への還元=ギャラが高くなります。
高収入の競技と低収入の競技との違い①:放送権
では何が、競技の総収入を左右するのでしょうか?
それはズバリ「②.放送権」です。
放送権とは「テレビなどのマスメディアが番組として試合を放送するための権利」で、メディアから競技団体に放送権料が支払われ、4大収入源の大部分を占めます。
端的に言えば、テレビで放送される競技や団体はお金が潤沢になる、のです。
現在のプロ野球は、人気の低迷により放送権料が下降傾向の様ですが、全盛期には巨人だけでも年間130億円の放送権収入があったと言われています。それだけあれば多くの給料が払えるのは当然ですよね。
特に海外では、アメフトや大リーグ、ヨーロッパサッカーなど、日本よりも遥かに巨額の放送権料が入り、結果数十億円の年収を得る選手たちもゴロゴロいます。
(Jリーグでも発足当初はTV地上波で多くの試合放映され、選手たちの給料も高い時期がありました。今はかなり縮小している様ですが)
逆に放送権料が得られない競技は、出場選手の能力や成績が高くてもギャラや賞金は少なくなりす。
高収入の競技と低収入の競技との違い②:PR
高収入と低収入の競技にあるもう一つの差は、プロモーション(PR)です。
放送権からの収入が多い競技はお金がある為、組織レベルで注目を集めるためのPRが可能です。例えば、イベント・WEBマーケティング・メディア戦略などは組織が主導して行います。
その為、選手個人がPRに精を出す必要はなく、純粋に競技実績を上げることにコミットメントしやすくなります。
一方、放送権からの収入の少ない競技は組織がPRに割くお金が少なく、また個人競技が多い事もあり、知名度は選手個人の活躍やPR活動に依存しがちです。
その為、活躍の場を広げ収入を増やすには、競技者としての能力を上げつつ、個人としてのPR活動を並行する必要があるのです。
メディアが求めるのは広告価値
このように、競技団体や選手が多くの収入を得るには、メディアでの価値が重要になります。
ではどの様な要素が「価値」になるのでしょうか?
一般的に、メディアが競技団体やチームに払う放送権料は、番組に企業が出す広告(スポンサー)料が原資となります。
その為、メディアは次の要因で競技や選手を判断します。
- みんなが見たい=人気がある競技または選手か
- 企業はそのスポーツ番組に広告を出したがるか
つまり、競技または選手に「広告価値があるかどうか」が重要になります。
時に、競技の成績ではイマイチながらメディアや試合に頻繁に登場する選手がいますが、それはその選手に話題性があり「注目を集め視聴者増に貢献」するからであり「=広告価値が高い」と判断されているからです。
また、①のチケット収入にも関係するため、競技の主催団体としても集客効果が高い選手を優先的に起用したいでしょうし、その様な選手は自ずとギャラが高くなります。
その為、選手自身も「自分の広告価値・集客効果を上げる」ことを意識する必要があります。
アスリートがコミットできる収入源
とは言え、マスメディアが絡む舞台への登場機会は狭き門です。
現実的には、個人としてスポンサー企業を獲得することも一つの手でしょう。
海外に比べ日本のスポーツは「国からの支援が少なく、企業からの支援で成り立つ」事が特徴としてあります。
実際に企業が選手個人を支援するケースも多々ありますし、競技から得られる収入よりも、スポンサー企業からの収入が多いアスリートも多い事でしょう。この場合もやはり、企業の狙いは「広告宣伝効果」です。
しかし中には、スポンサーと言う名目で金銭の提供はありますが、人間関係からくる「応援」の様なケースも多いのではないでしょうか。
しかしながら、選手としては好意に甘んずる事なく、企業の宣伝効果に貢献し堂々とスポンサーを増やしたいですし、それは可能です。
2種類のセルフプロモーション
選手が自身の広告価値・集客価値を上げるには情報発信が必須です(競技成績を上げるのは当然ですが)。
どんな価値があるモノや人でも、知ってもらわねば意味がありません。情報が溢れるの今の世で「頑張っていれば、いつか自分の価値に気づいてもらえる」と思うのは大きな間違いです。
個人の発信ツールがなかった時代は、メディア側が話題を探しにリアルにまで降りて来てくれました。
しかし今の時代は、インターネット上に流れてくる情報から記事や番組を作る時代です。特にSNSで人気の話題を取り上げれば手っ取り早く記事ができる上に、ほぼ話題性も保証されるのでメディアとしては草の根を分けて話題を探しに行きません。
また、人間には「ザイオンス効果」と言い「繰り返し接すると好感度や印象が高まる」特性があることから、メディアから選ばれる・ファンから指示される、には定期的に一定数の情報を発信し続けることは効果的です。
そして、認知拡大が上手くいったとしても、それを自身の収入アップに繋げる必要があります。
その為にはプッシュ型とプル型、2つのセルフプロモーションが有効です。
プッシュ型プロモーション
自分から不特定多数へ向けて発信(プッシュ)するプロモーションです。主に次の様なツールがあります。
SNS
- コミュニケーションが取りやすく関係性を深めやすい
- 手間が掛からない
- 拡散されやすい
YouTube
- 手間はかかるが質の高い情報を発信できる
- 話題になりやすい
- 人気が出れば広告収入が得られる
- YouTube自体を自分の広告枠にする事ができる
音声メディア(Voicy・standfmなど)
- YouTubeよりも手軽に自身の声で情報を発信できる
SNSのネタに困る場合は
良くあるのが「SNSで何を発信すれば良いか分からない」という悩みです。これについては、PRの専門家である笹木郁乃さん提唱のフレームワークを応用できるかもしれません。
以下、引用します。
「ファンを増やすSNSの黄金比(数字の割合で投稿する)」
1:告知
集客の後押しも狙って発信する情報。イベント開催や新商品、新サービスのお知らせ、など。ここぞという時に絞って出す。3:多面性
父親や母親、家族の一員としての一面や、仕事で苦労しながら試行錯誤している一面、など。「不完全な自分」を見せるのが大事。完璧でないからこそ共感が得られる。3:お役立ち情報
その道のプロだからこそ知っている面白い情報やうんちく、仕事や生活に役立つ知識、など。「ギブの精神」で。読者が喜ぶ質の高い情報を、惜しみなく出す。3:実績
(参考:笹木郁乃,「0円PR」,日経BP,2019年12月,143ページ)
お客様からの褒め言葉や感想、メディアの取材を受けたこと、イベントの集客や賑わい、など。「いいね」は付きにくいと心得ておく。覚悟の上でアピールしよう。
実際、この方法を参考にフォロワーを数倍にしたアスリートもいます。
YouTubeの使い方
アスリートのYouTobeは、格闘家の朝倉兄弟の成功により一気に広まり始めました。
しかしこれから始める人が、朝倉兄弟のようにYouTuberとして広告収入目的で始めるのはあまりお勧めできません。現在のYouTubeはレッドオーシャンで黒字化は大変です。
また、広告収入を目的とすると再生回数に一喜一憂する事になり疲れてしまいます。
まずは、再生回数やch登録者数をあまり気にせず、自分の人となりを知ってもらい、試合機会やメディア露出、スポンサー獲得のためのPR手段の一つとするのが良いでしょう。
さらに、YouTube内でスポンサー企業をPRすることで、スポンサー企業の広告枠として利用することも出来るかもしれません。
プル型プロモーション
競技で活躍したり、プッシュ型PRで不特定多数に認知拡大すると、その中から興味を持ってくれたファンや競技関係者、企業関係者、メディア関係者がより詳しい情報を探すようになります。
そこで受け皿として準備しておくと良いのが、プル型プロモーションとなる自身のオフィシャルサイトです。
オフィシャルサイトの特徴は「大切な情報を常時PRできる」事です。SNSでは時と共に情報が埋もれてしまいますが、オフィシャルサイトがあれば、アピールしたい大切な情報を常に見せる事ができます。
例えば次の様なコンテンツがお勧めです。
プロフィール・実績
人物や競技実績を知ってもらいましょう。
プロフィールには、記憶や印象に残りやすい個人情報を盛り込むと効果的です。
ストーリー
人は人間性や苦労などに共感します。なぜ取り組んでいるのか、何が大変だったか、何を頑張って何を勝ち取ったか、これから何を目指すか、などを載せてください。
メディア情報
過去、メディアに取り上げられた実績を載せましょう。取材対象を探しているメディアは、他のメディアに取り上げられた実績があると安心して扱ってくれる傾向があります。また、スポンサー企業が広告効果を図る指標の一つになります。
スポンサー情報
スポンサー企業の情報を載せましょう。オフィシャルサイトを持つことで、企業の露出先を増やす事ができ、企業の広告効果に貢献できます。また、スポンサー募集要項も明確に載せましょう。企業側も「この選手のスポンサーになれるのか」と気づくことができ、スポンサードされやすくなります。
最新情報
選手活動・メディア出演・社会貢献など、常に活動している事をアピールしましょう。
このようにプッシュ型とプル型のPRを両方実行することで、競技活動やSNSで拡大した認知を最大限収入に繋げやすくなります。
試合出場権も、スポンサーも、取材も、ファンによるSNSの話題も、結局は人が決めます。同じような成績の選手複数人が選択の俎上に上がった時、決め手となるのはキーマンの記憶にどれだけ好印象が残っているかです。
定期的な情報発信に取り組み、露出の量と質の確保を頑張ってください。
終わりに
日本のスポーツ界は欧米と比べアマチュアイズムが強く「産業としてスポーツビジネスが拡大しない=流れ込むお金が増えない」と言われています。
例えば、以下の風潮があるのではないでしょうか。
- スポーツが教育の延長として捉えられており指導者が奉仕、または低報酬
- 名誉と栄冠だけを重視しそこに金銭的価値を求めない
- 質素・倹約を美徳とする
- 自己アピールする人は敬遠される
このようなアマチュアイズムは一見好印象を与えますが、アスリートや指導者が活躍に見合った報酬を得ることを阻害します。
そしてそれは競技人口が減少する原因になり、やがて競技全体の衰退にもつながります。
この様な結末を避け、日本のスポーツを成長産業にするためにも、選手の皆さん個人が情報発信やセルブランディングの重要さを理解し、どんどん情報発信をして収入を得る文化ができて欲しいと願っています。
また、アスリートが持つ一流の技術や知見、マインドを発信することは世の中の役に立ち、社会貢献にも繋がります。
我々Platooは、そのような意思を持つアスリートと社会を繋ぎ、一般社会とエキスパートが身近に繋がれる機会をサポートをして行きます。
ご興味ある方はお気軽にお問い合わせください。